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「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」
練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。
この男が入つて来たとき、徳次の仲間だつた二人の馬喰は急にぴたりと話をやめた。そして、落ちつきのない眼で時々そつと男の方をぬすみ見た。男はぢろりと一瞥した。それは荒い皺が隈取りのやうに走つている顔だつた。だが、それきり三人の方を見ようとはしなかつた。
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
「フム」
「何しに来た!」
と云ふ、思ひがけないほどはつきりした声で差し出した。そして、又淡泊なさつさとした足どりで台所の方へ去つた。
「あんまり、ぢつとしとつてもな、身体が生なまに、なるもんぢやから」
「あ、お帰んなさい」
「うん、もうさつき帰つたよ」
患者の脈を見たり、舌を出させたり、背部を指で押し、打診し、薬を与へたりすること、そんなことは誰にだつて出来る。それからあの、開業医にはぜひとも必要だと云はれている社交的な才能、お世辞を云つたり、砕けた気の置けない態度で抜かりなく会ふ人ごとの心をつかむ――「ふん」と、房一は独言のときに自然と目の前につくり上げるもう一人の自分に向つて冷笑してみせた。
「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」
それがふしぎに思はれた。